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【挑戦者インタビュー02_後編】しまの心優しさに触れてオープン。ゆいまーるで繋ぐ未来への架け橋。

さまざまな困難をも持ち前の明るさで乗り越え、念願の平安座島での暮らしをスタートさせた亜裕里さん。「肉や食堂 inへんざ」は、今でこそたくさんの人が訪れる人気店になっていますが、オープン当初を振り返るとそこにはやはり、たくさんの困難も待ち受けていました。

「最初は簡単に、A5のお肉が食べられるお店でもできたらいいかなって考えていたと思います。沖縄はお肉のお店が多いって聞くけれど、私たちが満足できるようなお肉を提供しているお店になかなか巡りあえなくて。私たちができることといえば、美味しいお肉を気軽に食べられる機会を提供すること。店を開けば人が来ると簡単に考えていましたね」。

美味しい肉をたくさんの人に味わってほしい…という肉屋のプライドをかけてオープンした2018年10月。仕入れた肉を冷凍保存せず冷蔵にこだわり提供しようとしていた矢先、2つの大きな台風が沖縄に到来。4日に渡る停電が続き、準備していたお肉を全て廃棄しなければいけない事態に。

「半年間収入がない状態でお金もなく、台風で無駄を出してしまった。なんとかオープンのために再度仕入れたものの、お客さんが全然来ない…。沖縄を舐めていたと反省文を書こうかと思ったくらい落ち込みました」と当時を振り返ります。

窮地を救ってくれたのは、平安座島の自治会長さん。島中に電話をかけ、店に来るように声をかけてくれたうえ、亜裕里さんを車にのせて島中を走り、店の宣伝をしてくれたのだそう。その甲斐あって、島中の人が店に足を運ぶように。

「ウェイティングが出るまでたくさんの島の人がたくさん来てくださったことは、本当にありがたかったです。島の人が一通り来てくださった後、市役所の方がSNSで私たちのお店を紹介してくださって。それを見て聖吏(しょうり)さんが来てくださったんです。聖吏さんは店の宣伝方法も知らない私たちに『沖縄はたくさんの人がFacebookをやっているから、お店のページを作った方がいい』とか、だれが店をやっているかわからないと来る人も不安だから…と私が肉を持った写真をGoogleにアップしてくれたり…とか、たくさんのアドバイスをくれました」。

亜裕里さんが慕う聖吏さんとは、うるま市の島嶼地域にて、カヤックやSUPなどのマリンスポーツを提供する「カモメのジョナサン」の代表・玉城聖吏さん。

「この店は、市役所の方や聖吏さんのプロデュースといっても過言ではないほどです(笑)。それに加え、同じ平安座島のブーランジェリーカフェヤマシタさん、浜比嘉島の高江洲製塩所さんや、沖縄の海で育った貝を磨いてジュエリーを作る「かいのわ」のご夫婦、そして島々で宿泊施設を営んでいらっしゃる皆さん。この島々で商売するなんて厳しい…と言われてきたなか、今もなお頑張ってそれぞれの商売を切り開いていらっしゃるたくさんの方達が、私のことを自分ごとのように心配して、自分たちのお客さんたちに紹介してくださいました。みなさんのサポートがなければ、私は今頃大阪に帰っていたかもしれません」。

少しずつお店にも人が足を運ぶようになったものの、大阪に進学のために残っていた長男の雄大さんへの仕送りや、沖縄での生活という二重の暮らしを考え、泣く泣くの思いで雄大さんを沖縄へ呼び寄せることに。

「本心は息子には自分の将来のために、大阪で学業を全うしてもらうのが一番と分かっていながら、生活の基盤を整えるために仕方なくて。親としては一番心苦しい選択だった」と、当時を振り返る亜裕里さん。

そんな思いを察してか、雄大さんは快く沖縄行きを承諾し、3代揃っての店を切り盛りしはじめます。

「ここからが、息子と私のバトルの始まりです(笑)。長男が沖縄にきて、店のメニューを見てすぐに『このままでは潰れる』と」。

もともと食べ歩きを趣味にしていた雄大さんは、日頃から人気店を食べ歩いていたこともあり、すぐさま店のメニューを一番の強みである「特上肉」のみで勝負することを提案。

「それまではあんまり高い値段だとお客さんが来づらいのではないか…と和牛(未経産牛)もメニューに取り入れていたんです。でもネットでの評判を見るとやはりA4、A5ランクの牛肉が一番美味しいというコメントがあって、これは私たちが出せるA4、A5ランクの肉で勝負すべきだと、全てのメニューを一新しました」。

心配とは裏腹に、A4、A5ランクの上質な牛肉をメインに構成されたメニューに切り替えてから、売り上げはさらに伸びはじめ、南さん一家が掲げる「美味しいお肉を気軽に食べ、幸せな時間を過ごしてほしい」という思いが通じ、いまでは県外各地、そして県外からも多くの方が足を運ぶ人気店になっています。

A4、A5ランクの国産ブランド牛を、驚くほど安い値段で提供しているその理由について亜裕里さんは
「私たちが儲けてない…というのもあります。でも私たちもそうだったけれど、辛い時ほど美味しいものを食べることが、唯一の楽しみや生きがいになるじゃないですか。美味しいって食べられることが、どんなに幸せなことか、それを皆さんに体感してほしい」と話します。
その言葉の裏に、さまざまな苦労を乗り越え、それでも希望を失わずに前だけを見続け、どんなに小さなチャンスも見逃さず、実直に歩んできた南さん一家の幸せへルールが見えたような気がします。

「この島で暮らして、一番良かったと思うことは、〝ゆいまーる〟(助け合い)の精神を知ったこと。自治会長さんをはじめ、島の人、宣伝の方法や広げ方を教えてくれた聖吏さん、そしてこの島々ですでに商売をはじめておられる島の方達。自分に利益がなくても私たちを助けてくださる。そしてその恩は次の人にバトンタッチしなさい…とまで言ってくださるんです。こんなに素晴らしいゆいまーるの精神を知れたことが、ここであらたな挑戦を始めた一番の喜びです」。

島での暮らしも2年目。ようやく島の暮らしにも慣れ、沖縄の人の暮らしや動きが、旧暦文化に根付いていることを知ったと話す亜裕里さん。島に根付き、深くそして広く根を張ろうとする南さん一家には、それを支える島の人たちの深い愛情が見えました。

【DATA】
肉や食堂 in へんざ
沖縄県うるま市与那城平安座252
TEL. 090-8823-7130
営業時間:11時〜16時
金-日のみ11時〜16時、17時〜21時
定休日:木曜
https://nikuya-shokudo-henza.com/

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